【マイクロフォーサーズの弱点をカバー】ポータブル赤道儀導入で星景撮影にチャレンジしてみた

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高感度耐性が低いマイクロフォーサーズでも低ノイズで満天の星景撮影が可能なポータブル赤道儀を導入してみました。

ポータブル赤道儀導入の経緯

マイクロフォーサーズ機でも低ノイズで満点の星空を撮りたい!と思ったのがきっかけでした

愛車で全国各地の絶景を求めドライブ旅する事が大好きな我が家。
時々星空観察に適した地に訪れる事もあり星景撮影にもチャレンジする時がありますが、高感度耐性が低いマイクロフォーサーズ機を使っている事もあり、写真展などで見る様な満点の星空を描写した星景写真を撮ろうとすると、どうしてもノイズが目立ってしまうのが悩みの種。。。


ポータブル赤道儀導入を考えるきっかけになった一枚 
露出時間が稼げないぶんISOを上げて対応したい所ですが、この写真の様に被写体の照度が低い場合、ISO3,200を超えるとノイズ処理ではごまかし切れない場面が多くなります。

解決手段を考えてみた

現状の機材構成「マイクロフォーサーズボディ+F2.8レンズ」の組み合わせを前提に考えると、問題解決出来得る手段としては以下の選択肢を思い付きましたが、今回は一番費用対効果が高そうなポータブル赤道儀を導入する事にしました。

  • ポータブル赤道儀を導入
    広角レンズを使った撮影であれば簡易モデルでも倍以上露出時間が稼げる事で相対的に低感度での撮影が可能になる筈。
  • 開放F値の明るいレンズを導入
    星景撮影においては感度が1・2段下げられる、他の撮影シーンでも活用出来るなどメリットはあるが、星景撮影に限って考えるとポータブル赤道儀と比べ費用対効果が低いので見送る事に。
  • マウント替え(又は追加導入)
    フルサイズ機(特に高感度お化けなんて言われるα7SII)であれば、こんな悩みも一気に解消しますが、導入費用は勿論の事、機動性(小型軽量・防塵防滴)を最重視する機材選びのポリシーに合わないので、妄想に留めておきました(笑)
赤道儀とは?導入によって実現出来る事

赤道儀(式架台)とは、地球の自転によって天体が地球の周りを回る日周運動を打ち消す※ための特殊な架台です。
※赤経軸に内臓されたモーターを日周運動の速さに合わせ回転(追尾)させる事で実現しています。

昔は天体望遠鏡用の大型かつ高価な一部のマニア向けな製品しか存在しなかったのですが、デジタルカメラの普及で昔より天体撮影が容易になった事もあり、近年は容易に導入出来るポータブル赤道儀と呼ばれる物が登場しています。
本格的な赤道儀は赤経軸と赤緯軸の2軸で構成されていますが、ポータブル赤道儀では赤緯軸を無くし簡素な構造とする事で、小型化と低価格化を実現しています。

肝心の追尾精度に関しては、ポータブルと名の付く通り本格的な赤道儀と比べ劣りますが、簡易的な極軸合わせ(追尾精度を確保する為に赤経軸を天の極に合わせる事)でも数分程度の露出時間を稼ぐだけの追尾精度が得られるので、今回の導入目的である「高感度耐性が低いマイクロフォーサーズでも、低ノイズで満天の星景撮影」が実現出来そうです!

星景撮影時の適正露出時間の求め方

 

赤道儀を用いず星景撮影する場合、日周運動の影響を受けずに点で写せる露出上限時間の目安は以下の式で求める事が出来ます。

 

500 ÷ 35mm換算の焦点距離 = 露出上限時間

 

35mm換算焦点距離(mm)露出上限時間(秒)
1435
2420
2817
806
1005

 

ポータブル赤道儀の機種選定

本記事更新時点で10社以上のメーカーから様々な機種のポータブル赤道儀が販売されています。

今回製品選びのコンセプトとしては、主に(超)広角レンズを使った星景撮影を想定しており、それ程追尾精度を求めていないので、撮影機材と同様に機動性を重視して「軽量コンパクトで容易に導入(撮影)可能である事」を重視する事にしました。

結論としては、搭載する撮影機材が概ね1Kg強で収まるため耐荷重やギアの材質に神経質になる必要が無い事と、コンパスアングルプレート(別売)で簡易極軸合わせが可能な点が決め手となり、検討対象とした製品で一番コンパクトなナノトラッカーに決めました。

購入対象として検討した製品一覧

メーカー製品名実売価格本体重量(Kg)耐荷重(Kg)特記事項
ビクセンポラリエ32,0000.82.0ポーラメータ(別売)で簡易極軸合わせ可能
ケンコースカイメモS33,0001.05.0極軸望遠鏡内臓
サイトロンジャパン初代ナノトラッカー20,0000.52.0コンパスアングルプレート(別売)で簡易極軸合わせ可能
サイトロンジャパンナノトラッカーTL24,0000.58.0コンパスアングルプレート(別売)で簡易極軸合わせ可能

ナノトラッカー2機種の違いとしては、TLの方がカタログ上の耐荷重アップに加えタイムラプスモードが追加された点がありますが、2機種共に樹脂製歯車である事に変更が無く実質的な耐荷重や追尾精度に大きな違いが無さそうな事と、タイムラプスモードは余り重視していなかったので初代を導入しました。

今回購入対象から外れた機種に関して

 

ビクセンとケンコーは共に昭和世代から望遠鏡を販売する名の知れた光学機器メーカーです。

フルサイズ機など搭載重量が重めで駆動負荷が懸念される場合や、今後星雲などより追尾精度が求められる本格的な星空撮影にチャレンジするのであれば、歯数の多い金属ギア(追尾精度に直結)や多彩なオプション(極軸望遠鏡が導入可能)など、ナノトラッカーより良い選択肢だと思います。

 

今回導入したポータブル赤道儀「ナノトラッカー」と「コンパスアングルプレート」

E-M1 f/2.8 1/40sec ISO-400 25mm

導入製品の選定を終えたタイミングで早速購入。

左側:本体、右側:コントローラー
本体とリモコン共にコンパクトなので旅行にも気軽に持ち出せます。

本体の右手前側に簡易極軸合わせ用の覗き穴があり、一応これだけで極軸合わせする事は可能ですが、天体観測に慣れた方でも相当面倒ですし、何より北極星を目視出来ない環境では極軸合わせする事が出来ません。。。
そんな訳で別売りとなってしまいますが、以降で紹介するコンパスアングルプレートを一緒に購入しました。

 

初代ナノトラッカーでもタイムラプス撮影モードが使えます

 

WEB上の説明では追尾モードは等速と0.5倍速の2モードだけとの事でしたが、実際には50倍速固定ではあるものの、タイムラプス撮影モードが使えました!

約30分で360度のタイムラプス撮影が可能なので、旅先で見晴らしの良い場所に訪れた際など、日中の撮影でも活用出来そうです。

ナノトラッカー各部の画像・説明

※左上から順に1枚目~4枚目

  • 1枚目
    三脚穴は一般的な1/4インチサイズです。
  • 2枚目
    リモコン接続用のコネクタ
  • 3枚目
    コントローラーは使える機能が少ない事もありシンプルな構成。
    通常は撮影を始める5分ほど前に電源投入(真ん中の電源ボタン押下)、目的の撮影モードを選択(左側のスイッで等倍・星景撮影用の0.5倍を選択)し歯車の慣らし運転を実施後、撮影を始めます。
  • 4枚目
    電源は単3電池3本で駆動します。(エネループ使用可能。アルカリ電池使用時で連続駆動時間は約5時間)
    現行のナノトラッカーではコントローラー左側に外部電源ポート(USB)が付いており、モバイルバッテリーからの給電が可能ですが、私が購入した物は初期型の様で付いていませんでした。

E-M1 f/4 1/13sec ISO-400 30mm

こちらは極軸合わせを容易にするため一緒に購入したコンパスアングルプレート。
簡易的な極軸導入が容易に行える様、コンパスと水準器に加え、ナノトラッカー取り付け部に35度の傾きが付けられており、本州で利用する前提であれば水平出しした上でコンパスを北側に向けるだけで、極軸導入が出来てしまう優れモノです。

覗き穴を使わず、より正確に極軸導入したい場合は?

 

広角レンズで60秒程度の露出時間で撮影するのであれば、コンパスアングルプレートを使った簡易的な極軸導入で問題ありません。

 

但し、焦点距離が長いレンズを使いたい、更に露出時間を延ばしたいと言った場合はより正確な極軸合わせが求められるので、撮影地の緯度や偏角を考慮し、コンパスアングルプレートの緯度(35度)と方位磁石が示す北とのずれを微調整する必要があります。

 

観測地の緯度・偏角を知りたい場合は国土地理院のページ(参考リンク)が便利です。

コンパスアングルプレート各部の画像・説明

※左上から順に1枚目~4枚目

  • 1枚目
    元箱にナノトラッカー取り付け時の注意書きが記載されていました。
  • 2枚目
    三脚取付用のカメラ穴は1/4・3/8がそれぞれ1ケ所ずつ開けられています。
  • 3枚目
    コンパスアングルプレートに付属のボルト(1/4インチ)とワッシャー。
    ネットではワッシャーの厚みが足りず、ナノトラッカーが固定出来ないとか、ボルトとレンチの規格が違って締め付けられないとの書き込みを見掛けましたが、現在出回っている物は対策品の様です。
  • 4枚目
    付属のボルト、ワッシャー、レンチを使い、問題無くナノトラッカーを固定する事が出来ました。

E-M1 f/2.8 1/8sec ISO-800 40mm Horizontal (normal)

購入したタイミングが緊急事態宣言発令中で早々に実践投入出来なかったので、試運転と習熟を兼ねて自宅のベランで試し撮りしてみました。

コンパスアングルプレート導入のお陰で、

  • 水準器を確認しコンパスアングルプレートを水平にセット
  • 本体の方位磁石を確認し北向きにセット
    ※画像の場合、ナノトラッカー本体の回転軸が北極星を向いているイメージ

たったこれだけの手順を踏むだけで2分も掛からず簡単に極軸導入する事が可能でした。

しかも、こんな簡易的な極軸合わせでも換算80mmで1分程度は点で撮影出来たので、本番撮影ではかなりの成果が期待出来そうです!

近畿圏屈指の星空スポット大台ヶ原で、初めてのポータブル赤道儀を使った星空撮影にチャレンジ!

E-M1MarkII f/2.8 60sec ISO-3200 7mm

緊急事態宣言の影響で、機材購入から1ヶ月以上待たされるというハプニングに見舞われましたが(笑)
久々のドライブも兼ねて、近畿圏屈指の星空スポットである大台ヶ原まで遠征して、はじめてのポータブル赤道儀を使った星空撮影にチャレンジして来ました。

結論としては、マイクロフォーサーズ機で「低ノイズで満点の星空を撮りたい」要求を叶えるには最適な機材だと実感しました!

今回の撮影ポイント

大台ヶ原ドライブウェイ · 奈良県吉野郡
奈良県吉野郡

大台ヶ原ドライブウェイの途中にある展望スペース。
満天の星空をバックに愛車撮影するには非常に適した場所でした。

冒頭の一枚はポータブル赤道儀を使って撮影した、当日の撮影ポイントの様子。
狙って行った訳では無かったのですが、撮影当日は運良く「みずがめ座エータ流星群」出現最終日だった事もあり、平日にもかかわらず撮影ポイントには先客が居ました。

被写体の照度が低い場合、ISO3,200を超えるとノイズ処理ではごまかし切れない割合が多くなる傾向がありますが、ポータブル赤道儀導入の効果は絶大で、長秒露出によって大台ヶ原の夜空に潜む星空をキッチリと拾い出しつつも格段にノイズ量を抑える事が出来ました。

E-M1MarkII f/2.8 92sec ISO-1600 7mm

露出時間を90Sec程度まで稼ぐと、さすがに地上の被写体の描写が甘くなっているのが分かると思います。

また、ポータブル赤道儀を使った星景撮影では地上の景色が流れてしまう点を懸念していましたが、四隅に近付くに連れ流れの影響を受けやすいため被写体の配置に気を配る必要があるものの、今回の撮影条件(60Sec程度 7mm)であれば等倍モードでも気にならない程度に留められる事を確認出来ました。

ポータブル赤道儀の有無による画質差

E-M1MarkII f/2.8 60sec ISO-3200 7mm

E-M1 f/2.8 25sec ISO-1600 13mm

全く同じ条件で撮影しなかったため、似た様な構図と被写体照度の画像で比較してみました。
上:ポータブル赤道儀有り(ノイズ処理無し)、下:ポータブル赤道儀無し(ソフトフィルター有り、Dfineによるノイズ処理有り)

ボディの性能差を割り引いて考える必要はあるものの、それでも赤道儀の有無によるノイズ量には明らかな差を実感出来ると思います。

 

(2021/6/26追記)明るいレンズと組み合わせれば更にノイズレスな星景撮影が楽しめます!

E-M1MarkII f/0.95 60sec ISO-800 10.5mm Voigtlander Nokton 10.5mm F0.95 (ポータブル赤道儀使用)

星景撮影用に購入した超広角単焦点レンズ(Voigtlander NOKTON 10.5mm F0.95)とポータブル赤道儀を組み合わせて撮影した一枚。

明るいレンズとポータブル赤道儀を組み合わせれば、低ISOでもここまでクッキリと天の川を捉える事が出来ます!

 

みずがめ座エータ流星群を捉えたショット

E-M1 f/2.8 25sec ISO-1600 13mm

この日撮影した中で一番特大な「みずがめ座エータ流星群」を捉えたショット

この日出現最終日だった「みずがめ座エータ流星群」
肉眼で観察している際は殆ど流れ星の存在に気付いていませんでしたが、帰宅後に撮影データを確認すると、特大の流れ星が幾つか写っていて非常に驚きました!

その他のみずがめ座エータ流星群を捉えたショット

初めての星空撮影を終えての感想など

E-M1MarkII f/2.8 122sec ISO-1600 7mm

ポータブル赤道儀を使った星景撮影は低感度長秒露出が可能なメリットを活かし、本来の星空撮影においてもメリットを実感する事が出来ましたが、「愛車のある星景撮影」を楽しむ者としての視点で評価すると、被写体へ充分なライティングが行えない状況で撮影する必要があるシーンなど、特に地上の被写体の画質を確保する為にとても有効な解決手段だと実感しました。

但し、そもそも長秒露出が難しい・必要としない場面もあり得るので、星景撮影だからと言って必ずポータブル赤道儀を使って撮影するのではなく、ロケ地の環境を判断してポータブル赤道儀無しで一発撮り、複数枚撮影しておいて加算平均合成で済ませる、ポータブル赤道儀を使ってキッチリ撮影するかを使い分ける必要がある事も実感しました。

あと、携帯性を優先して軽量コンパクトなトラベル三脚を使っている事が災いして撮影時に風の影響を受けやすいので、なるべく三脚の高さを低めにする、足の開度を広めにする、ウェイトを取り付けるなど、運用面の工夫が必要だと感じました。(この日は2L分の飲料水をウェイトフックに吊るして凌ぎました(笑))

まとめ

E-M1 f/2.8 60sec ISO-1600 7mm

星景・星空撮影好きなら一度は興味を持つのでは?と思われる「ポータブル赤道儀」。
私もそうでしたが、天体撮影で使う本格的な赤道儀をご存じの方であれば「価格」・「導入の難易度」がネックで、興味はあるものの、なかなか導入に踏み切れませんでした。

しかし、実際に導入してみるとマウントする機材や求める撮影シーンによって若干左右されるものの、手軽かつ気軽にワンランク上の星景撮影を楽しみたいと言った使い方であれば、

  • 2万円代から購入出来る「価格面での手軽さ」
  • 三脚セッティング時にひと手間加えるだけで気軽に撮影導入する事が出来る「導入面の手軽さ」
  • 持ち運びが苦痛にならない「運用面の手軽さ」

と言った価格・導入・運用面全てにおいて、想像以上に手軽に扱える機器である事を実感出来ると思います。

今回導入したポータブル赤道儀はこちら

私の様にマイクロフォーサーズ機で星景撮影を楽しんでいる方であれば、最も安価かつお手軽なナノトラッカーでも充分に効果を実感出来る画が得られるのでお勧めです!

マイクロフォーサーズ機でも望遠レンズと組み合わせて使いたい、他マウント機との併用を前提とする場合は、搭載重量の増加で駆動負荷が懸念されるので、金属ギヤ仕様なこちらのポータブル赤道儀がおススメです。